羽のひしゃげた蝉だから

羽化し損ねた蝉を見たことがあるだろうか。半透明な体は歪に歪み、潰れた羽は重石のようである。脚をカサカサといわせて、さも苦しげに地を這う姿。 まさしく、這う這うの体で。後は死を待つだけといったその姿は、今の自分の生き様に似ている。

【ホラー小説感想&考察】梨『6』(ネタバレなし)

〜 梨果汁少なめで喉越し爽やか〜

 

 最後の章で世界観を解説してくれていて、前作『かわいそ笑』より親切。SCPのTAILのように同一世界観の二次創作も作れそう。

 私的にはモキュメンタリー風味の強い3章と4章がお気に入り。

 

 1章2章は視覚的表現が多く、少し読みにくく感じた。

小説のためというより、映像や漫画の原作としての文章といった印象を受けた。

もし挿絵や図解があればもう少し読みやすかったと思う。しかし、その場合は3章のインパクトが薄れてしまうから難しいか…

 

 3章と4章に関しては、最後の章で語られるような詳細は不明のほうが面白かったのにと考える読者もいるとは思う。考察が好きな人は特に。私としてはこのネタを書籍にしてくれてサンキュー!という思いでいっぱいだ。

本当に短編としての完成度が高い。展開の緩急、おゾゾ感、読了後の余韻が凄まじい。

 

 5章には文学的な美しさを感じた。醜く凄惨な人間の死体と静謐な幽霊の死体の対比。幽霊の死体を触ったときの感触の描写が美しい。不善で不浄なはずなものを神聖に再構築する。その正邪の混濁にフェチズムを刺激された。 

 

 鬱で読書が辛い、または梨さんファンだが活字は苦手、その他もう地獄に落ちるのが怖いという人は最後の章から5章、4章と読み進めるといいかも知れない。